【心身養生を考える からだメンタルラボblog】

身体と心へのアプローチを実践しているからだメンタルラボの活動情報や、鹿児島市での活動を地域支援活動を行うこだちの活動情報、身体と心のつながりについてのお話などを掲載しています。

問題行動を防ぐ最善策を学ぶ【自傷・他害・パニックは防げますか?】

発達に課題のある子ども達が

社会生活していく上で問題になることが

多いものに自傷・他害・パニックという、

いわゆる問題行動と言われるものがあります。

 

その問題について、

真っ向から切り込んだ

“自傷・他害・パニックは防げますか?”

という本をご紹介します。

 

自分に対する暴力も、

周囲に対する暴力も、

親御さんはもちろん、

関わる大人も心が痛いものです。

 

今はなくとも、

いつか問題行動が出てきた時に困らない、

そして出てくることを予防するためにも、

子ども達と関わる支援者や保護者さんには、

是非一度読んでみてもらいたい一冊です。

 

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 目次

 

三人の著者について

廣木道心氏

これまでのブログでも何度かご紹介しています。

介護士であり、武道の達人。

そして発達障害と知的障害を持つお子さんの父でもあります。

武道と子育て、さらに現場での経験を基に、

お互いに傷つけず傷つかないため武道、

“護道介助法”を創始された方です。

護道のサイトにようこそ – GODO Web Site

護道の実践例や廣木先生の経歴は

こちらの動画でも見ることが出来ます。

www.youtube.com

 

栗本啓司氏

小田原でからだ指導室あんじんを主催し、

人々の身体を整える

コンディショニングの実践を行っている方です。

からだ指導室 あんじん

 

コンディショニングの実践が、

発達障害のある人々にも劇的に効果を発揮したことから、

花風社から

発達障害へのコンディショニングについての著書を、

“自閉っ子の心身をラクにしよう”

 “感覚過敏は治りますか?”など

複数出版されています。

 

現在は全国でコンディショニングの講座を開催しています。

前回の大阪講座の様子はこちら

 

 

榎本澄雄氏

株式会社kibi代表取締役

警察官として勤務し、

退職後に発達障害支援の現場に身を置いた方です。

studio kibi 

 

現在は、警察時代の経験などを活かし、

講演なども数多くこなされています。

 

そして花風社から、

“元刑事が見た発達障害 真剣に共存を考える”

を出版されています。

 

 

以上の三名の共著という形で、

編集者の浅見淳子さんと対談形式でお話が進んでいきます。

 

“自傷・他害・パニックは防げますか?”について

目次は以下のような内容となっています。

まえがき:自傷・他害・パニックからの解放

第一章:そもそも、自傷・他害は防ぐべきものなのか?

第二章:誰も傷つけない身体づくり 自傷・他害・パニックを起こさない身体を育てる

第三章:誰も傷つけず、誰も傷つかない身体の使い方を覚える 護道介助法<実践編>

あとがき:護る楯を手に入れよう/生命が輝く支援を!/親として子ども達の未来のために望むこと

参考文献

 

この本の根本のテーマは、

発達障害の自傷・他害・パニックについて、

どういった対応を取るべきかです。

 

まえがきでは、

まずこのテーマへの問題意識、

そしてそこから

浅見淳子さんにより、

この本が生まれた経緯が語られます。

 

第一章以降は対談形式で、

榎本澄雄氏、廣木道心氏、

著者二名へのインタビューを通して、

支援の現場における、

自傷・他害・パニックへの対応の問題や現状

が語られます。

 

第二章では、

栗本啓司氏によって、

本人が自傷・他害・パニックに陥らないで済むための

身体を作っていくためのポイントが解説されます。

 

第三章では、

廣木道心氏の開発した

護道介助法のノウハウを紹介し、

相手を傷つけないための、

支援者や保護者も傷つかないための方法

が語られます。

 

併せて、

相手を自傷・他害・パニックに陥らせない

身体のあり方についても説明がされています。

 

最後に著者三名の支援に対する想いが語られる。

という内容になっており、

現場で実際に

自傷・他害・パニックに対応をしてきた

実践者からの言葉と対応策を学ぶことができます。

 

この本から学べる重要ポイント3つ

子どもの問題行動への意識

療育などの現場では、

ABAやSSTなどが用いられることが多いです。

それらが役に立つこともあるとは思いますが、

問題行動に対しての有効性は

個人的には疑問があります。

 

特にABAを実践している支援者から、

「問題行動は無視するように」と

言われたという話はしばしば聞きます。

 

ただ、周りに害がある、

公共の場で望ましくない振る舞いをした時などに、

止めずに無視していることで、

より行動がひどくなっていった例は少なくありません。

 

これは、発達障害の傾向のある子は

「無視される(注意されない)=やっていいこと」と

認識しやすい傾向があるからだと思います。

 

そういった振る舞いがあることで、

親御さんはその子と外出するのが苦痛になっていき、

さらにその子はエネルギーを持て余して、

色々な問題行動を増やしていく。

 

そして問題行動が増えすぎると、

成長しても受け入れてもらえる場所がなく、

引きこもりなどの社会問題へと繋がってしまう。

 

そんな悪循環に陥っていかないためにも、

小さいうちから問題行動は止める意識を持つこと。

これがシンプルですが、

この本から学べる一番重要なポイントです。

 

そして次で紹介するような、

問題行動の背景因への対処も行いつつ、

その子が問題行動をしなくて済むように

アプローチしていくことが、

その子の将来の可能性を広げていく

のではないかと感じました。

 

問題行動の原因となる身体の問題

問題行動がある子ども達は、

その行動だけが目立ってしまい、

周りの人々はそれを抑えることにのみ

終始してしまいやすいです。

 

ただ、問題行動が出るということは、

その背景には、

何かその子がしんどくなってしまう原因があります。

 

そこが手を付けられないと、

結局その子の中にはフラストレーションだけが蓄積し、

また別の問題が生じることとなってしまいます。

 

この本の貴重なところは、

その原因についても明らかにされている点です。

原因となる要素として、

体内の水分の問題

排泄の問題

余剰エネルギーの問題

目の問題

筋肉の問題

支援者の身体の問題 

といったものが挙げられています。

 

最後の支援者の身体の問題については、

また後ほど触れますが、

それ以外に挙げられている要素は、

主観的には非常に不快感があっても、

具体的にパッと見えづらく、

認識してもらいづらいものです。

 

例えば、

自分が目がだるいと感じていても、

ひどく充血しているとかでない限りは、

それを周りが気づいてくれることは

ほとんどないですよね。

 

このように、

これらの問題行動の背景となっている原因は

よっぽど勘がいい方ではない限りは、

知識がないと予想することが難しいです。

 

「こういった背景因があるかもしれない」と

周りが思えるようになるだけでも、

その子への見方、関わり方は変化する可能性があります。

 

そして、今は問題行動はない子であっても、

そういった身体の状態を意識して見ていてあげると、

後々の問題行動が生じるリスクも

軽減出来るのではないでしょうか。

 

相手に悪影響を与えない身体作りの3要素

本書の中では

支援者の身体の使い方が他害を誘発することもある

 という事実が明確に指摘されています。

 

これは特定の場所では暴れる子が、

他の場所では問題ないといった場合が

あることを思うと納得出来ることです。

 

ただ、私はこれまでこの点を

明確に指摘している本は見たことがなかったです。

そして、更に本書では、

それを改善するためのポイントも紹介されています。

 

相手に悪影響を与えないための関わり方をするためには、

  • 間合いを読むこと
  • 身体の軸を作ること
  • 触れ方への配慮

の3つの要素が重要となります。

 

これだけ読むと難しそうですが、

本書では、非常に簡単に

修練していく方法が紹介されています。

 

その他

武道の教科書として

護道介助法は

武道の達人である廣木道心氏が

「母親が自分より大きくなった子を止められるように」

と開発されたこともあり、

様々な武道のノウハウが組み込まれています。

 

そのため本書で説明されているやり方を読むと、

武道の達人が行っている超人的な技の裏側も

少し理解出来る部分があります。

 

力を出すためには力む必要はない。

その基本がわかるだけでも、

武道の技術を高めることに役立つかと思います。

そういった興味で読んでみても面白いかもしれません。

 

レビューより

全体的には高評価が多いですが、

一部では、

「対談形式が読みにくい」

「頭に入ってきづらかった」

という感想があるようでした。

 

たしかに情報量も多く、

読んだ知識を基に、

実際に相手を観察して

試行錯誤をしていく必要がある内容なので、

一度読んで理解出来たとはならないかもしれません。

 

特に第三部は、

読みながら実際に身体を動かしてみて、

その中で感覚を身に着けていく必要があるはずです。

 

そのため、知識だけを得たいという人には

そういった感想が出るのも納得出来る気がします。

ですので、実際に身に着けたい、

より良い関わりのために試行錯誤をしていきたい

という方向けの本ではあるかと思います。

 

まとめ

自傷・他害・パニックという問題に対し、

当人の身体の内側まで踏み込んで対処法を紹介し、

関わる側の良い影響を及ぼす身体の作り方まで

紹介している良書です。

 

読みながら、実際の体験と摺り合せ、

試行錯誤していくことで、

多くのことが身につきます。

 

現場で

自傷・他害・パニックの問題に悩まれている

支援者や学校の先生、

そして、まだ問題行動はなくとも

発達に気がかりのある子育てをされている親御さんで、

より良く関われるように努力したいと思われる方に

オススメの一冊です。